顎関節症と言われたのですが、顎の痛みを取り除きたい。そして、歯並びが悪いので矯正をしたい。
そんな出会いから始まりました。その患者とは…
歯周組織も結構やられていて、中途半端な治療であれば、この主訴は、お引き受けできないというのが、正直な感想でした。
どういった、いきさつか覚えていませんが、治療方針を決めていく作業を行う前に、言われました。
「体の歪みを治してから、矯正を始めた方が良いと、整体の先生に言われました。」
『そうですか?』これが、私の反応。
定期的に歯茎が腫れて、消炎処置に来られる。
『体はどうですか?』
「前よりも、凝りは減った気がします。」
『それは、良かったですね。』
でも、噛む位置は微妙に変わってきていることが分かります。
整体の先生から、噛み合わせも治しますので、と言われているのです。
『そうですか…』
この位置が変わったことが、その実、干渉を起こして、外傷性咬合という形で、歯茎が定期的に腫れるのにな…
何回目かのお付き合いの時、思わず訊ねました。
『もし、この歯が残らないと、私が言ったと仮にします。その場合、あなたは、その非は誰にあると思われますか?』
「歯科の担当である限り、歯科だと思うのですが…」
これは、たまらんと言う訳で、気づいた点を、正直申し上げました。
『これ以上、腫れを繰り返すと、難しいですよ。』
毎回毎回腫れを取り除いても、骨は吸収していくだけですので…
困りました。
患者より渡された条件は、歯は触らず、整体の先生がOKを出すまで、対処して欲しい。次に、歯を残せない場合は、歯科医にその責任がある。
参りました。
『今から手をつけないと、難しいですよ。』
結果、
「話は理解したが、一度、整体の先生に相談をして決めてみたい。」
後日、報告が来ました。
「もう少し、待って欲しい。そして、別に歯科医なら、僕の事を師事している歯科医を紹介も出来る。その方が、安全だから…」
患者より、その言葉を聞いた時、あれれ?それが、個人としての感想でした。でも、決して、愉快な感覚ではありませんでしたよ。
それだけ、患者に信用されて素晴らしい事です。その整体の先生は。そこは、正直な感想です。
でもねが、あります。相手の立場を、おもんばかることって、多分、すごく大事と思うのです。でも、その発言は、会ってもいない人間の尊厳も無視した言動…
へこみますね。
困りましたね。
『どうしましょうか?』
思わず出た言葉でした。
患者も困られたみたいでした。
「この整体の先生に見捨てられると困るのです。」
『でしたら、どうするか、考えましょうか?』
これが、私の、寂しい心を向こうにやっての白衣の顔として選んだ発言でした。
「お手紙を書いてください。」
書きました。
同時進行は駄目なのか?このまま、放置したら歯を失う可能性がある。
Etc.etc.(エトセトラ、エトセトラ)と…
返事は来ませんでした。
一度だけ、腫れて、来られました。
「先生の処置が、どうも効くみたいで…(よそに行ったのかよ!)」
処置はしましたが、やはり、出る言葉は、
『落ち着かれてから、という方向性でしょうかね?』
「落ち着くまでは、駄目と言われておりますので。」
『そうですか、では、その日までお待ちしましょう。』
それから、一度もお会いしておりません。お手紙の返事も来ません。
ですが、見る限り、口は開くようになっておりましたが、曲がって開いておりました。な感じとさ。
ついでに、歯周組織は、火事ボウボウという、落ちになっておりましたとさ。
別に、関わる行為を、否定しているわけではありません。
歯科医以外で、楽に出来るもの、即ち、代替医療と言う存在を否定するものでもありません。
でも、歯科に診断権があり、診療権がある病名を、専門家以外が、完治と言う言葉を使用する事は、実は、非常に危険と思うのです。
そんな経験のお話でした。