ま、興味が出て来て、思わず彼のエネルギッシュな語り口に聞き入ります。こうなれば、自然の流れの方が素敵と言うものです。
こじ開ける気にもなれませんし、こじ開けて上手く運ぶとも思えません。分かりませんから。唯それだけ、そんな感覚に襲われる。
アイスコーヒーは、あまりの勢いにのまれる感じで、場つなぎでついつい口にしてしまう。
“もう、参りますわ。あの、＊＊先生は、タイで開業をしたいと言う言葉を理解するのに、1年ですわ。”
意味が分からない。只、聞いている。
“メールが来て1年かかりましたわ。どうですか？タイは？”
“どうですかじゃないですよ。どうもこうも無いですよ。私は、タイで就職して何とかやっているのに、どうですかは？無いと思いませんか？”
勢いに負けて、勢いよく動く唇と、大阪弁のバリバリの臭いにやられたのか、ウッチャンも、何気にアイスコーヒー-を口にしている。場をつなぐ為に、大の大人二人揃ってアイスコ—ヒーのグラスを持って、ストローを口にするのだから、その様は笑えると言うものだ。
“嫌ね、あまりにしつこいメールが定期的に来よる物ですから、思わず尋ねたんですわ。こちらから。先生は、タイはどうですか？色々とメールをよこしよりますが、何をされたいのですか？”
“そしたらどう反応をしたと思います？”
同時に首をかしゃげる、アイスコーヒーグラスを持ちながらストローを持つ2人。
“嫌ね、要約いいよりました。開業をしたい。”
“だから云ってやったんですわ。大いにやって下さい。大いにやられて下さい。こちらがとやかく言うものでも無いでしょう。先生の自由ですから。私が国内の事、よう口に出せませんわ。”
うなずく二人。
“そしたら、違いましたわ。参りました。挙句には、タイで開業をしたいと。”
ウッチャンが合いの手を打つ。
“＊＊＊先生ですか？”
“そう、あの＊＊＊先生です。”
“いやあ、参りました。タイの事情も何も知らんで、ほんで持って開業でしょ？もう訳が分かりませんわ。”
聞くあたしも訳が分かりません…
何で、日本人が異国で開業？しかもライセンス関係なく？疑問だらけ？
ふと、そういえば、中国では日本人相手に日本人が上海で開業をするブームを聞いたっけ？そう言えば、タイの業者さんに、タイで開業をしたい日本人のドクターはいないか聞いたっけ？これも日本人相手だそうな。流石、ジャパニーズ“円”と言う事かな？
ようは、歯科治療は現地（この場合、タイ人）のドクターに治療をさせて、自分は監督をする。そんな感じかな？ま、影のオーナーになると言う事かな？
何となく概要が見えて来る。本当かどうかはこの段階では分からないけれど。
“まあ、だから紹介したのですよ。”
ウチャンがすかさず反応をする。ま、さすが仕事がら反応が早い。
「誰をですか？」
“いや、ご存知かどうか知りませんが、マッチャンですわ。”
「ほほう。」
“いやね、丁度いい具合に居抜の物件があったもんで、そこを紹介したんですよ。と言うのもね、この＊＊＊先生、何にも考えとらんですよ。タイに来てやれば、上手くいくと勝手に思っているのです。もう、そんな時代じゃないです。10年前なら、まだしも。そうそう、ＩＭＦ危機の時は、そりゃあ、もう良い想いをさせて貰いましたわ。100円あれば、豪遊でしたからね。あれは、もうあり得ませんわ。当時のレートは異常でしたからね。”
この人は、その頃タイに来たのだろうか？訳が分からない。訳が分からないまま、あたしはタイにいる感じ。基本的には、もう『どうでもなれッ?』と言う感じ。丁度、何故か、高校受験の面接を思い出す。目の前の学生が（受験生が）目の前で、屁をこきました。“ぷっ”て。その瞬間、柄も言えない香りと、緊張感はぶっ飛び、感覚は『どうでもなれッ!!』そんな感覚と同じものをえ始めます。
面接官は淡々、目の前で香しい香りの下のお尻を見ていたあたしは、何か緊張感と言う夢が覚めました。まさに、そんな感覚。どうなる事やら…
何で、あたしは、この勢いをひたすら見ているのだろう？
そんな疑問まで飛び出す始末。
話が飛びすぎ…
もうそんな感情しか湧きあがって来ません。
